忌野清志郎 「雪どけ」の歌詞(青字の部分)を引用しています。「雪どけ」、季節はずれな歌を選んでしまったのですけれど。でも名曲です。歌詞の部分だけでも、噛みしめて読んでいただければ嬉しいです。
雪どけの道では 何度も何度も足をとられ
大切な一言が 言いにく言いにくい 春なのさ
ぼくには言えない
とても言い表せはしない この心を
忌野清志郎を聞きながらケーキのようなものを作ろうとしている。レシピは特にない。なんとなくだ。
キッチンのテーブルの上に短いバナナの房があって、そろそろ表面が黒くなりかけている。だからまず、そんな房から数本を折り取り、皮をむいてボールに入れスプーンと泡だて器で細かく潰していく。さらにさくっと水切りした木綿豆腐を入れてさらに潰していく。
君の優しさは 言葉では言葉では 軽い
僕のしたことを ユーモアにユーモアに してしまう
よくある出来事さ だから言い表せはしないOh また君のことを考えてた
どう思うんだろ こんなぼくを My Love
昨夜、紙フィルターをセットしたコーヒードリッパーに生ヨーグルトをたっぷり入れ、サーバー代わりに大き目のカップを受け皿にして冷蔵庫に放置しておいた。見ればカップにはヨーグルトから染み出たホエー(乳清)がたっぷりと溜まっている。 ドリッパーごとカップを取り出して冷蔵庫の扉をしめて……。
突然、大きな爆音がしたかと思うと、地面がゆれる。台所の壁面がくずれ天井が落ちてくる。さらなる爆音!! 落下してくる瓦礫に押しつぶされていく自分の身体……。
あぁ、そんな風なことがガザでは起きていたし、今だって起きている。じっと身を固めて、想像する。日常が戦場。でも僕は銃は取っていない。自爆攻撃もしない。イスラエルが狙ったこの建物には無力な僕と上の階にいる姪っ子のパートナーの若者しかいない……イスラエルが狙ったのは若者のほうだったのか? ……近所から流れてくる赤ん坊の泣き声。
気を取り直して、ドリッパーからフィルターを取り出し、フィルターが破れないように注意しながら水切りを終えたヨーグルトを取り出す。もはやヨーグルトというよりは、カッテージチーズの塊。それもバナナと豆腐を砕いたボールにポンと入れてしまう。そして、さらにスプーンと泡だて器でグルグルとかき混ぜていく。ホエーのほうは、そのまま飲んでしまう。
駅までの坂道に お日様がお日様がとけている
ぼくの毎日を ユーモアにユーモアにしておくれ
いつもの出来事さ 駅のホームに散らかっているものごとさ
どろどろになってきた生地に蜂蜜を大匙に山盛りすくって流し込む。かき混ぜて味をみる。香りづけにカカオ粉も混ぜる。きな粉の袋も目についたので、それも加える。
例えば冷蔵庫。連日30度を超えるこのプノンペンなら、電気が止まれば中の食料は2~3日もすれば全滅だろう。
昨日から電気が止まった。水道も止まった。2階の窓から塀の外をみれば、そこには近所にできたユダヤ系イスラエル人の入植地から湧いて出てきた多数の男性住民がこの家を囲んでいる。彼らが家につながる電線を切り、水道管も破壊したのだ。
「直接暴力をふるったわけではない」と彼らは言う。「ただアラブの侵入者に、この土地から出て行って欲しいだけだ」と彼らは言う。「ここは神が我らに授けた土地なのだから」と彼らは言う。
地域の警察にはまだ充電の切れていない携帯電話を使って通報した。そして2階からは、警察の姿も見える。けれども、彼らは荒ぶる入植者たちの外側でただ黙って様子をうかがうだけ。入植者が塀の向こうに留まって踏み込んでこないのは、警察が見ているからなのかもしれない。とすれば、警察が見守っているだけ、まだましということなのか。
でも、電気が止まり、水も止まって。食料だって数日分の蓄えしかない。数日もすれば、誰かが門をあけ食料を買いに出かけなければならない。車を使おうとしても、門に通じる路上には彼らが居座ってバリケードを張っている。歩いて門をでればどうなるだろう? 彼らが黙って通過を許すとは到底思えない。この家を囲む入植者住民の中にはライフルを持っている奴が何人もいる。
子どもたちは学校にも行けない。その学校だって、教師が通うことも妨害されているというから、きっと開店休業だろう。
銃声! 窓ガラスが割れる音。 そして、笑い声と歓声。警察は、それでも黙認している。私たちは窓から離れた場所でじっとうずくまる。事態を打開するために、私たち自身ができることが何もない。いったいどうすればいいのか。ここを出てどこへ行けばいいのか。
そういうことが、パレスチナ領ヨルダン川西岸で、何カ所も毎日のように起こっている。それを世界も僕も止められない。ただ傍観している。僕はケーキのようなものをつくっている。
この生地をどうするか。固めるなら寒天をつかうか、あるいはパンケーキ粉と卵を混ぜこんで焼くか。寒天を使うことにして、戸棚のコーヒーカップを取り、寒天粉を入れる。湯沸かし器に沸いたお湯を取ろうとしたとき、アッ、脇に置いたカップに僕の左肘が当たる。カップが床に落ちて砕けた。破片が飛び散る。細かい寒天粉も散らばる。響くのは清志郎。
言い表せはしない 言葉では言えない
でもそれは とても強い
間違ってはいない 世界で一番強い
愛 それは愛 これは愛
うん、ケーキ作りは、間違ってはいない。ケーキ作りは、世界で一番強い。
上の階にいた姪っ子のパートナーの若者が、カップが割れる音に気がついて階段を下りてきて台所をのぞき込む。床に散らばった破片のかたづけを彼に頼む。
昨日もお気に入りのコーヒーカップを落として割ったのだった。二日続きの悲劇、惨劇、僕は元気。
ふーむ、床に散らばった寒天粉、あれが最後のストックだった。さて、どうする。ふとこの生地をそのまま凍らせてしまえばアイスクリームにならないか?というアイデアが頭に浮かぶ。 焼くよりも簡単そう。
幸いなことに、ここは電気が止められたりはしていない。爆撃もない。空を常に偵察用ドローンが飛び回っているということも、ない。あのドローンは楽天経由の輸入品?
生地の表面を平らにならして、サランラップをかける。そしてボールごと、冷凍庫に入れてしまう。さて、どうなるか?
うん、アイスクリームは、世界で一番強い。間違ってない、間違ってはいない。
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5分チョットの曲です。この曲、ほんとうに大事なことが歌われている気がするのです。

















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