
一昨日にサナダムシ、昨日にマラリア、と、途上国での疾病の話が続きました。その続きで、今日はちょっと趣向を代えて、理科教育の視点から。
冒頭に上げた写真(メールで読んでいる方は、届いていないかもしれません。興味があったら、ブログのページに飛んでみてください)、ルワンダの小学校の理科の教科書から。野外でおしっこ、ウンコはだめですよ、という内容だ。さらに、もう一枚は、「毎日、清潔にね」という主旨の内容のページ。これも理科の教科書から。
日本の理科では見られない内容だ。この事例はルワンダの教科書からだけれど、同じような内容は、カンボジアやフィリピンの教科書でも見られる。公衆衛生の内容が理科に含まれていないのは、ぼくの感覚では、国際社会の中で、日本の理科のほうが少数派だ。
寄生虫やマラリア原虫の生活歴も、途上国の理科では必ず出てくる。こちらも日本の理科教科書では触れられない。まぁ、マラリアは現在の日本では、ほとんど感染の危険はないから、あえて学ぶ必要はないのかもしれないけれど。
以下は、カンボジアでの理科教育支援に取り組まれている、都筑功さんのFBでの投稿(今年の8月29日)より。都筑さんは、日本での生物教師としての経歴の長い、理科教育の達人であります。
昨日、日本科学教育学会第44回全国大会が開催されました。……私はこの学会では、「カンボジアと日本の中学校および高等学校の教科書の比較-ウイルスはどう取り上げられているか」という発表をしました。もともとカンボジアの理科教育支援のために教科書の分析をしていましたが、ウイルスについて中学校3年と高校1年でそれぞれ3ページずつ記述されていました。一方、日本ではウイルスが生物には含まれないということから本文には掲載されず、参考の囲み記事で発行社によって数行~1ページの記載があるのみです。他の国はどうかなと思って教科書図書館に行って調べたら、中国、韓国、台湾もカンボジアと同様、ウイルスを数ページ取り上げています。この原稿を提出後にドイツ、イギリス、フランスなどを調べても同様で、日本の生物教科書が国際的に見ていかにずれているかが分かりました。……<発表論文集の概要>カンボジアの公立中学校理科および高等学校生物の教科書では健康や衛生,食物,農業,ヒトの生殖と発生など生活に関連した内容が多く扱われている。………(都築 功 | Facebook)
都筑さんが指摘されているように、日本の理科教育では、人の生活や健康に直接関連した内容が他国と比較して少ない。保健衛生といった内容は、「保健体育」という科目の中で座学で扱われているので、一応、学校教育の中では学ぶことにはなっている。そして、私の知る限り、途上国には体育という授業は、あったとしてもその内容はスカスカで、ましてや座学で学ぶなんてことは聞いたこともない。だから大切な公衆衛生の内容が、途上国では理科に入ってきているともいえる。でも、保健体育であつかうからといって、日本の理科が、理科的な視点で人の保健衛生を扱ってダメな理由にはならないだろう。
カンボジアの理科の教科書をめくれば、たとえばHIV(ヒト免疫不全ウイルス)とAIDS(後天性免疫不全症候群)をあつかうトピックも見つかる。カンボジアでは、HIVの有病率(HIVに感染している15歳-49歳の割合)は、1999年に1.7%に達し、その後は減少して現在は0.5%と見積もられている。(カンボジア HIV感染率, 1960-2019 – knoema.com)。国際的にカンボジアはHIV拡大食い止めに成功したケースとして知られている。理科教科書でのHIVの詳細な記述は、HIV拡大阻止の成功にも貢献しているはずだ。
今ここで、HIVに関する記述がどの学年の教科書で書かれていたかは確認できないのだけれど、そこではもちろんコンドームへの言及もある。最近は下火になったけれど、教室でコンドームのつけ方を教えるNGO活動などもあった。そんな現場から見れば、日本で、「学校で避妊を具体的に教える」ことの是非が議論されているのは、とても牧歌的な光景に見える。
(ちなみに、コンドームは感染症予防には効果があるけれど、避妊効果からみると“失敗”が多いので、問題ありだそうだ。なるほど。うん、ぼくも思い当たるフシがある。)
そして、この新型コロナウィルスの問題。手洗いの徹底等、感染予防対策の重要性がいわれる。きっと理科教育が公衆衛生教育の面で果たす役割は、ますます大きくなるはずだ。
でも、日本で理科を学んで、海外に理科教育支援に行く場合、途上国ならではの公衆衛生に関する理科教育の役割を、ついつい見逃しがちだ。コンドームや経口ピルなんて、サイエンスじゃない。ウィルスは生物に分類されていないから、理科教育であつかわなくても仕方がない。そんな日本“理科”業界からの視点では、なかなか届かない現実が世界にはたくさんある。
たとえば、ケニアでの学校封鎖をめぐる議論の中で「そもそも衛生な水のない学校で、どうやって手洗いの徹底を図るのか」なんてことが、教育援助関係者の間で話し合われているのを日本で読むと、そういう途上国の現場感覚をすぐに忘れてしまっている自分にぼくはドキッとする。(ちなみに、ケニア政府はコロナ対策として全学年・全生徒の一年間の留年措置をとったそうだ)
一方で、途上国の理科の中でのさまざまな感染症のあつかいにも、改善の余地は多くあるようにも思う。たとえば、抗原抗体がなにかも学んでいない学年に、とつぜんその言葉が使われ、バクテリオファージが図に示されたりする。バクテリオファージの図を小学生や中学生に示しても、実際にはそれがなんだかた教える先生側だってわかっていない。各教育段階で、どんな情報を適切に学習していくかというあたりは、途上国の理科教育での内容は、まだまだ洗練されていないと思うことがぼくは多い。感染症や、公衆衛生の内容もそうだ。

(図そのものは、私が無料画像から、今、選んだものです。)
そういうわけで、日本の理科教育が途上国の理科に貢献できることはまだまだ多いし、一方、日本側があちらに学ぶこともあるよ、ってことなんだ。日本の教育支援で理科教育というのは、お得意分野のひとつだった。ぜひ、そんな“伝統”をますます強化していって欲しいなぁ。

















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