軍需産業のマッチポンプ
本題に入る前に、まず映画をひとつ紹介します。『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』です。1月30日から渋谷のシアター・イメージ・フォーラムなどで上映されています。詳細は以下からどうぞ。
この映画、原作はアンドルーファインスタインという方の『武器ビジネス マネーと戦争の「最前線」』という本です。2015年に原書房から上下2冊で出版されている大著です。
アマゾンのページで紹介されている文章は「武器取引の詳細は、国家機密の名の下に国民の目に触れることはなく、軍産複合の大グループと武器商人たちが莫大な利益を手に暗躍している。これまで明かされなかった「闇の世界」をあばき、戦争の真の動機を解き明かしたドキュメント問題大作」ということになります。
英国のサッチャー首相がサウジアラビアに、BAEシステムズという軍事企業を通じて大量の兵器を売った際の裏金の話、さらに米国ブッシュ父子政権で重要な役割を担ったディックチェイニー(父ブッシュ政権では国防長官、子ブッシュ政権では副大統領)を中心とした米国政権と世界各地の“テロ”組織との武器支援と、さらにオバマ政権の中東を中心とした暗殺作戦……。
トランプ政権をふり返ったとき、唯一評価できるのが、海外で新しい戦争を起こしていないことという声があります。それは、軍需産業から距離を置いていたから。なるほど(となると、従来の流れに戻ったバイデン政権では、新たな戦争が起きますね。注目しておきましょう)。
映画をすごく簡単に要約すると、軍需産業と英米政権、さらにはその支持を受ける国(サウジアラビアや、たとえばネルソンマンデラ後の南アフリカ共和国とか)との癒着、政治家にばらまかれる裏金、それは結局、軍需産業が常に新しい戦争が必要なからだ、ということを暴く映画です。
それを見て、驚きはない。単に具体的な“手法”、支援しておいて状況が変われば叩く、イラクもISISも、が改めて示される“だけ”。とびかう金額が何千億ドルとか言われても、もうピンと来ないですよね。
こういうのをマッチポンプと呼びます。マッチポンプとは、「自ら起こした問題に対して、利益のために問題の解決をもちかける行為」。そうやって、軍事大国は常に軍事産業の需要と供給を自分たちで作り出していくってことです。
開発援助業界もビッグビジネス
さて、いよいよ本題。今日のタイトルは《国際開発援助は、大きな産業なんだという視点、辛めのSDGs考》です。以下の朝日新聞の記事(2019年4月11日)によれば、2018年の日本政府の政府間援助(ODA)の総額は141億6707万ドル(1兆5646億円)だったそうです。この記事に出ているOECD開発援助委員会加盟国のトップ米国から29位アイスランドまでのODAを全部合わせた総額はぼくの計算では1530億ドル(ざっと16兆円)になります。
この金額はODAだけですから、非政府組織(NGO)/非営利組織(NPO)による国際支援は含まれませんけれど、寄付で賄われるNGO/NPOよりもODAのほうがずっと大きな金額だと思われます。さらに、OECD開発援助委員会に参加していない、ロシアや中国などの海外支援の金額も含まれていません。それでも、それらすべてを合わせても、二桁兆円?かな。
日本のODA、世界4位 2018年は1兆5千億円:朝日新聞デジタル (asahi.com)
先に紹介した軍事産業のほうですけれど、以下の共同通信社配信のニュース(2020年4月27日)によれば、2019年の世界の軍事費は1兆9170億ドル(約206兆780億円)だったそうです。こちらは三桁兆円。軍事費と比較すれば、開発援助の総額が一桁違うのがわかります。それでも、開発援助もそれなりに大きな額ですね。
日本政府の2020年度の国家予算学は102兆6580億円です。このブログ『越境、ひっきりなし』で一番多く登場するカンボジア政府の2020年度の国家予算は8.6ビリオン$で、円に換算すると8600億円強。二桁兆円という国際援助の経費の大きさがイメージできるでしょうか?そこらの開発途上国の国家予算の10倍、20倍、30倍? あるいは、もっと?という金額になります。
19年世界の軍事費、3.6%増 最高額更新、米中押し上げ | 共同通信 (kiji.is)
【図解・行政】2020年度の予算案構成(2019年12月):時事ドットコム (jiji.com)
National budget for 2020 approved – Khmer Times (khmertimeskh.com)
つまり、国際援助というのはひとつの大きな産業です。どれだけの人たちが、この国際援助に従事しているかと考えれば、かなりの数になるでしょう。その人件費も大きな額になる。さらに、ぼくのあくまで印象ですけれど、この国際援助に占めるマイクロソフトやアップルというコンピューター業界に支払われる金額もかなり大きいんじゃないかと思います。プロジェクトを始める際には、必ずパソコンが必要になります。さらに途上国の教育セクターではパソコンやアイフォンを使った教育ブログラムが多く開発されつつあります。ユーザー(先生や、生徒や)がそれを使うためには、ユーザーがパソコンやアイフォンを持たなくてはいけない。日本ODAによるプロジェクトでは見たことはありませんけれど、欧米系のプロジェクトではパソコンやアイフォンを配るというものがかなりあります。おそらく新型コロナ禍で、そういうプロジェクトはさらに増えているでしょう。援助に関わるコンピューター関連支援の世界中の総額は、そこそこいくんじゃないかなぁ。
開発援助に限りませんけれど、途上国のエリートにとって、国連系組織への就職というのはもっともいい給与がもらえる就職先です。国連児童基金(UNICEF)や国連教育科学文化機関(UNESCO)、国際労働機関(ILO)、国際連合食糧農業機関(FAO)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界保健機構(WHO)の各国事務所のスタッフになるのは、とても高い社会的ステイタスになる。しかも、こういった国際機関は、各国から平等にスタッフを雇用しようとするから、チャンスはある。
国連関連だけではなく、開発支援業界では最大手ともいえる世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、アフリカ開発銀行(AfDB)、米州開発銀行(IADB)などの、開発銀行もそれぞれ大きな組織です。、たとえば2019年のADBの職員数は3500人ほど(ウィキペディアのアジア開発銀行の項より)。万が一、ADBがなくなれば、これだけの高学歴集団が失職することになる。
(あと、小さい声で書きますけれど、国連や開発銀行の職員をある年数以上継続すると、かなりいい年金が保証されているんですよね。そのお金も、もともとは援助関連基金から出ていることになるんじゃないかな。)
さらにですね、いまや国際開発というのは、世界中の大学の学部や大学院に多くのコースで学ばれ、各国の学会、さらには国際学会も数多くあります。当然、そこの教官たちも、国際開発業界の人たちといえるでしょう。
SDGsは、開発業界が自作自演する流行装置、でもあります
そして本屋さんにいけば、国際開発、国際協力の本がたくさん並んでいますよね。それだって、援助に関わる仕事です。その編集、デザイン、印刷、販売…、そこにも多くの人が関わっている。
最近は、SDGs(持続可能な開発目標)の新しい本がどんどん出ていますよね。SDGsのロゴ、見たことがある人が多いでしょう。あのロゴ、2019年にちらっと変更があったのを知る人は多くないんじゃないかしら。以下、ふたつ並べましたけれど、新旧どちらかわかります?


SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン | 国連広報センター (unic.or.jp)
上が旧で、下が新です。よりシンプルにするために、以下が変更されたとのことですよ。
(1) SDGsロゴのフォント変更と青色の統一
(2) 17ゴールの数字フォントの変更
(3) 世界を変える17の目標というタグラインはなくなる
(4) 18個目のアイコンはカラーホイールのみに変更
(5) 使用方法で商業用途を条件次第で認める
数字のフォントとか、見比べてもよくわからないけど。
この変更で、資料等の変更が、世界でどれだけ行われたのかと想像すると、ちょっとクラクラします。そこにも手数とお金がかかったはず。
SDGsをはっきりと明示し、それを世界で共有するというのは、もちろん大切なことです。
でも、以下のような視点もあります。
教育セクターでは、2015年まではEFAという標語がとても重要でした。EFAはEducation for All、「万人のための教育」です。これは1990年にタイのジョムティエンで開催された『万人のための世界教育会議』から始まった大きなムーブメントでした。すべての人に教育をというスローガンは2015年までに達成するというのが国際社会の公約だったのです。実際、このムーブメントに乗って、多くの国で、学校数は増え、就学数、就学率も上がっています。さて、次の目標は何になるかな、なんて思っていたら、次は教育セクターだけに限らないSDGsというより包括的なムーブメントが打ち出されました。
ムーブメントを日本語にすると、大きな流れ、あるいは流行、ですね。うん、国際開発にも流行はあって、今、開発業界はSDGsという流行を新たに作り出し、世界に広く売り出している、という見かたもできるということです。
ぼくの友人のなかにも、一生懸命SDGsに取組んでいる人たちが何人もいます。彼ら彼女らが、今回の投稿を読んだら、あんまりいい気持ちはしないかもしれない。
なぜなら、SDGsを、業界自身が作り出していく流行と表現するのは、ちょっと意地悪な視点です。でも、軍需産業が新しい戦争を仕込むようなことが、開発業界で起こっていないとは言い切れないとぼくは思っています。もちろん、それは新しい開発ターゲットということで、「戦争」とは比較にならない! 人々の幸せを真っ向からぶち壊す戦争と、人々の新たな幸せをつくる開発ターゲットは、まったく違う(はず)。
でも、開発業界とそれが作り出していく利権に対しての批判精神は大事でもあります。もしあなたが将来、国際開発の仕事につきたいなんて希望を持っているならば、SDGsを批判的にとらえる視点も大事にしてください。
ちなみに、ぼくはSDGsの「誰一人取り残さない」というのが、ちょっと不満です。この書き方だと、油断しているとやっぱり誰かが取り残される可能性があるってことで、その誰かとは、どうしたって社会的に最下層な人たちです。
ならば、まず最下層の人たちのためのプログラムが必要でしょう。中流、上流の人たちは「取り残してもいい」。最下層の人を救う、その層を上げる、そのことをもっと前面に打ち出してもいいんじゃない?と思ったりはしています。まぁ、これはあくまで標語ですから、実際には最下層の人たちをターゲットにした取り組みがたくさん行われているのだとは思います。それに、中流・上流の人を巻き込まなければ、皆の関心を維持できないということもあるのだろうな。
SDGsの達成目標年は2030年ですね。そこで何が出てくるか?SDGs 2nd 、かな?それとも、もっと大胆に新しいムーブメントを打ち出すかな。ちょっと先ですけれど、どうぞご注目ください。そして、そこに利権がからんでいないか、注意深く見てください、ね。


















国際開発援助は大きな産業:以前、福祉関係で活躍されていたある議員秘書の方と親しくしていただいた時期がありました。お付き合い始めてしばらくした頃、「福祉関係の予算が6000億あるんだけど、これ、私たちで食っちゃってもいいよね」とのこと。その秘書の方は、お父さんが認知症*その当時は痴呆症!」、お子さんが知的障害でした。ここまでの覚悟がないと、障害者関係福祉関係で生きていけないな、と思いました。
SGDsも同じですが、私の不満はSGDsを進めるためには、「今の生活よりも不便になる」ことを教えていないことです。持続可能と言ったって、現状を続けることはできません。機会あるごとに発言しますが、なぜか、無視されます。
間々田和彦様
コメントありがとうございます!
そうかぁ、「今の生活よりも不便になる」かぁ。4畳半から6畳の部屋に移ると、4畳半には戻れないもんなぁ。
不便になるとして、何を削りましょうか。電気は削りづらいですよねぇ。障害者にとってPCは基本的人権の一部だし。
移動か?ご飯か?情報か?
世の中、現状維持でコストを下げる(そこを新しい技術で賄う)、って方向に進んでいるようにも思えます。
そんな技術革新?がビッグビジネスにつながる?
リニアモーターカーとかは、ちょっと無駄?そんな気もしますね。
村山哲也
「世の中、現状維持でコストを下げる(そこを新しい技術で賄う)、って方向に進んでいるようにも思えます」は、まぁ、夢ですね。先進国にとっては、ほぼほぼ可能かなぁと思います。新しい技術というような、現状を先送りするようなことでは、待ったなしの「今」を変えることができません!
原子力を見なさい、みんな期待したんだから。核燃料サイクルでいつまでもエネルギーが得られると喜ばしたのは誰だ!!!と、いつも言ってます。