早朝の、思いがけない贈り物

赤い矢印の先がルワンダ。  Google mapより作成。

 ルワンダで次の仕事をやらないかという声がかかったのは、2012年中ごろ。ちょうどカンボジアでの仕事が一段落して一息ついているときだった。教育開発支援をしていて、カンボジア、さらにはルワンダという20世紀後半に大きな悲劇をくぐり抜けてきた場所で活動できるのは、同業者からすれば“イイなぁ”と羨むようなことだろう。僥倖、もちろん行きますとも。でも、できるだけ長期で張りつけてね。
 地図で見ればわかるように、大きなアフリカ大陸の中でルワンダは小さな小さな内陸国だ。その面積は、日本の四国と同じぐらい。『ホテル・ルワンダ』、『ルワンダの涙』という映画で知られる虐殺が起こったのは1994年、すでに四半世紀前のことになる。現在では「アフリカの奇跡」といわれるほどの経済発展に成功したというルワンダ。ぼくは、2012年12月から2014年8月までの2年弱、主に中等レベルでの教育の質改善のためのODAプロジェクトに関わることになった。

 アフリカの小国ルワンダの首都キガリは、南緯2度とほぼ赤道直下に位置する。それでも、標高1500メートルあり、東のインド洋からも西の大西洋からも遠い場所にあり、年間の最低気温平均は摂氏15度程度しかない。日中の日差しは厳しいけれど、湿度は高くないサバナ気候で、蒸し暑さとは無縁だ。そして、特に早朝はずっしりと冷え込むことがあり、年に数日深い霧に覆われる。

霧につつまれる首都キガリ この投稿で書いている朝はもっともっと濃い霧が立ち込めていた。

 現職教員研修の視察のため、まだ薄暗い早朝にキガリ国際空港脇の借家をでると、辺りは濃い霧にすっぽりと覆われていた。
 首都キガリはルワンダのほぼ中央に位置し、そこから東西南北に主要な国道が伸びていく。千の丘の国とも呼ばれるルワンダには、平坦な土地はほとんどなく、その日にたどった北に伸びる国道4号線も、キガリの町を出るとすぐにくねくねと曲りくねる道を登ることになる。その朝、高度が上がるに連れて霧はますます深くなっていった。
 早い時間の出発に、同行する日本からの同僚やルワンダの仲間たちの口数も少なく、車だけは快調に高度をかせいでいく。やがて道は尾根に達し、そこからは尾根沿いに緩やかな登りをまっすぐに伸びていく。そこまでくると、ようやく顔を出したばかりの朝日が届いて、霧の中もだいぶ明るくなっていった。

 すると、それでもまだ濃い霧の中からリズミカルに動くものが浮かんだかと思うと、それは車の進行方向と同じ向きに走る女の子の姿っとなって現れた。薄青色のワイシャツに濃い青色のスカートを身に着けたその女子生徒は、ビーチサンダルを後方に高く蹴り上げるアフリカ系ランナーに多い大股なスライドで走っていく。車はすぐに彼女を追い越した。さらに、走って学校に向かう子どもたちの姿が次々の霧の中なら飛び出してくる。ある子は手ぶらで、ある子はノートだけを持って。ほとんどの子はサンダル履きだけれど、中には素足で走っていく子もいる。

 霧の中から現れては後方に下がっていく子どもたちの姿に気づいて、車の中から「すごい!」という小さな声があがる。助手席に座っていた私も、息を飲んでその風景を眺めていた。まるで真っ白の雲の中から、次々と走る子どもたちが浮かび出てくるような感じなんだ。それはまるで映画の冒頭シーンのようで、これから何かが始まるという緊張感をたたえた、加えて明るさをともなう光景だった。あぁ、これはきちんと見て、しっかりと目に焼きつけておかなくちゃなぁ。

 朝日が差し込むことで、霧はぐんぐんと晴れていく。すると、それまでは見えなかった100メートル先、200メートル先、さらにその先まで続く子どもたちの長い列が現れる。歩いている子もいれば、走る子もいる。
 その列の先が左手に折れていくのが見えてきて、その先には今度は向こう側からこちらに進んでくる同じ制服の生徒たちの列がみえる。霧の中の光景、きっとそれは長くても5分程度のできごとだったんじゃないだろうか。

 学校に行けば明るい未来が待っている、なんてことは、多分けしてない。いくつかの国の学校で見てきた授業の中には、時間を消費するだけのように思えるものもあった。ルワンダでの例なら、小学校にもある定期試験、算数の試験が2-3時間続いたりする。小学生にそんな長時間の試験は、無理だよぉ。
 それでも、学校って、悪くないことも多いんだと思う。学校が楽しい場でないとすれば、どうして子どもたちは、こうやって朝早くから長い道を学校に向かうのだろう。そうだよね。だったら、もっともっと、学校が貴方たちの役に立つ場所にならなくちゃね。がんばらなくちゃなぁ。

 長くやっていると、ときどきこういう思いがけない贈り物をもらうことがある。ちゃんと覚えていますよ。

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