『カンボジアの胡椒と その周辺の物語』外伝3 連載第27回 カンボジアが産油国となる日

石油が埋まっているよ― タイ湾をのぞむ、カンボジア・シハヌークビルの浜辺で

 『カンボジアの胡椒と その周辺の物語』外伝シリーズ、その3です。
その1で1941(昭和16)年の日本でのアンコールワットブーム、その2で1950(昭和25年)代の日本からカンボジアへの大量移民計画について書きました。(前回の投稿には以下から飛べます)
 今回は、カンボジアの石油について。ちょうどこの投稿を予定していたそのときに、カンボジアで初めての石油産出のニュースも届きました。さて、カンボジアが産油国として潤うってことが、これから起こるのでしょうか?

 石油が出るから、カンボジアの土地を買っておけ!

 黒いダイヤと呼ばれる石油。「カンボジアで石油が出る」という話しは、私が確認できた限り、1960年代にはすでに「一攫千金」を夢見る人たちのあいだでは、語られていた。
 その当時は、「トンレサップ湖から石油が出る」というのが主要な話だった。筆者も、カンボジアの経験が長い地質の専門家であるT先生から、この話しをうかがったことがあった。

 今回、あれこれ調べていると、石油エネルギー技術センター(JPEC) というところが、2016年二月に出した『カンボジアのエネルギー事情と離陸前の石油産業』というレポート(http://www.pecj.or.jp/japanese/minireport/pdf/H27_2015/2015-029.pdf)を発見した。それによれば1960年代にポーランドによる石油調査がカンボジアで実施され、石油の存在が明らかになっていたのだそうだ!おそらく、これがトンレサップ石油説の背景にあるのではないだろうか。

 今回改めてT先生に確認したところ、次のようなお話しであった。

 『トンレサップ湖から石油が出るという噂はずいぶん前からありました.いつごろからなのかはわかりません。地質構造からみて石油があってもおかしくはないところですし、実際にも日本の調査が行われてもいます。ただ、出るにしてもわずかな天然ガス程度でしょう。
 採算がとれるものではないようです.「石油が出たらいいな!」というあっちこっちの思いでそんな噂になっているように思います。石油=お金、です。
 カンボジアで石油が確実に出るのは沖合です。タイランド湾の中です。ただ、ここはタイとの国境争いの場になっています。』

 私の日本人の知人には、1960年代にカンボジアに関わっていた人から「石油が出るかもしれないから、カンボジアの土地を買っておけ!」と伝えられた人もいる。ただ、どうやら地上の土地を買っても、そこから石油が出て大金持ち!というわけにはいかなかったようだ。そして、海の中では、なかなか手は出せない。

2012年12月12日12時に石油が出るぞー!!!

 さて、私がカンボジアで働いていた2012年、2012年12月12日12時に石油が出る、という話しが広く出回ったことがある。以下は、2010年7月2日のカンボジアウォッチニュースの記事である。

2012年12月12日12時、カンボジアが産油国に 
 カンボジア国立石油機構(CNPA)の理事長を務めるソック=アーン副首相は1日、プノンペン市内のラッフルズ ル ロワイヤル ホテルで行われた仏教大学の卒業式で演説し、この中で、「我々は、石油の最初の一滴を2012年12月12日12時に得たい」と発表した。   
 CNPAは先月25日に幹部検討会議を開き、その席上、タイランド湾上の4,709平方キロメートルのブロックAのコンセッションを認可されている日本の三井石油開発(30パーセント)、米国のシェヴロン(30パーセント)、シンガポールのクリスエナジー(25パーセント)、韓国のGSカルテックス(15パーセント)は、試掘井3ヶ所で有望な結果を得たとする報告を行なった。4社は、現在の認可の更新期限である9月18日に最終報告を提出する見通しだ。消息筋が述べた。「ザ プノンペン ポスト」紙が今日2日付で伝えた。 
 海上油田からの産油はカンボジアにとって長年の悲願となっている。フン=セン首相は4月、2012年中に産油を始めないなら認可を取り消すと4社に通告していた。
http://cambodiawatch.net/cwnews/nikkei/20100702.php

 けれども、2012年12月12日12時になっても、石油は出なかった。三井石油開発がフン・セン首相に怒られたかどうかは、私は知らない。
 これまで、何度も「石油が出る、石油が出る」というニュースが飛び交い、もはや「またですか…」という気分も市民の間に漂っているように思う。また、石油が出ればカンボジアは豊かになると政府は言うけれど、実際は簡単ではないだろう。例えば、ナイジェリアはアフリカ有数の産油国だが、国内の貧困問題は格差の広がりで悪化するばかりである。カンボジアがそうなる可能性は、少なくない。
 世界各国の汚職問題を調査している「トランスペアレンシーインターナショナル」によれば、2018 年次に腐敗認識指数で、カンボジアは198か国中161 位にランク付けされている。これはASEAN諸国の中でもダントツに低いランクだ(ちなみに日本は18位、ASEAN諸国のなかでカンボジアの次に低いのはラオスとミャンマーがともに132位、さらにベトナムの117位、タイ99位、フィリピンも99位、インドネシア89位、マレーシア61位、ブルネイ31位、シンガポ―ル3位!)。そんな支配体制の下で、石油の利権がどうなるか、もし石油の利益が出たとして、それが誰の利益になるか。それが庶民の生活に利すると楽観的に考えるのが、むしろむずかしい。

 2017年8月にも、原油生産の契約がカンボジア政府とシンガポール系の会社の間で結ばれ、24ヶ月以内に商業生産に入るという報道があった。

https://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20170908-00547531-mosf-world

 また、2017年11月15日には、日本の出光興産株式会社がカンボジアの石油業界への20年以上に渡る、石油開発の技術支援、石油法など関連法案整備に対する支援を続けたことに対して、カンボジア政府フンセン首相より「カンボジア王国友好勲章」を受章している。(正確には、会社そのものではなく、担当社員が表彰されたよだ)。http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2017/171115.html

 ちなみに、出光興産(の担当者)が勲章をもらった翌日、2017年11月16日は、フンセン首相支配下にあるといわれるカンボジア最高裁がこのときの最大野党であるカンボジア救国党に解散命令を出し、カンボジアの民主主義が大きな危機に陥った日でもある。独裁開発に走るフンセン政権から石油会社が受勲したことと、民主主義後退のできごとが日を開けずしてあったというのは、石油とカンボジア与党との強いつながりを暗示しているように感じる私であった。
(http://www.phnompenhpost.com/national/breaking-supreme-court-rules-dissolve-cnrp

さて、カンボジアの石油はどうなるか。

ついに出た石油!2020年12月

 そして、この投稿を準備しているところに、2020年12月末に、タイ湾のカンボジア領土とされる海底からついに石油が産出されたというニュースが飛び込んできた。ついに!である。
 https://www.worldpoliticsreview.com/articles/29332/in-cambodia-oil-drilling-comes-online-but-who-will-benefit
 Cambodia Begins Oil Production, But Who Will Benefit? (cfr.org)
 

 記事によれば、シンガポールの会社による油田開発によるもので、2月中旬には1日7500バレルの産出が見込めるという。この産出量は、たとえばロシアの日産1000万バレル以上の値からすれば微々たるものだ。ASEAN諸国のなかでも、カンボジアの東西の強国ベトナムとタイは、それ以上の石油をすでにすでに商業ベースで産出している。それでも、もし予定通りの石油の生産が可能になれば、それは5億米ドル(500億円)の収入をカンボジア政府にもたらすらしい。2020年に新型コロナ禍で国内生産が落ち込んだカンボジアには、ひとまずは朗報だろう。カンボジアの首相は、石油生産開始を告げるスピーチのなかで、石油によって得られた利益を、国民の教育と医療の向上に向けると宣言した。

 問題は、さて、この宣言どおりになるだろうか、ということだ。同じ記事のなかではカンボジア政府の資金運営の透明性がないことが疑問視されている。与党の弾圧によって、内政の透明化に欠かせない健全な野党がまったく育っていない政治環境で、透明性を求めるのは無理、ということだ。
 石油産出のニュースに国が沸き返る、というような雰囲気は特にない。市民の冷静さの背景には、期待してないよ~という聞こえない声があるように思うなぁ。そんな私の妄想を吹き飛ばしてくれる明日のカンボジアであればいいなぁと思いつつ、今回の投稿は、ここまで。

 

 

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