北京経由で無事プノンペンに戻っています
はぁはぁふぅふぅ。私の体重は先日入院中にきちんと測定した数値が73キログラム。さらに機内持ち込みの手荷物も実は優に10キロを超えています。そして車イスも13キロ強。つまりおそらく100キロ近い塊である車イスを、彼は一生懸命押してくれる、その場所は北京国際空港です。天井のバカ高い、なにやら立派な国際空港。
彼はなにやらぶつぶつとつぶやきを繰り返すと、急に車イスを止めました。そして、私の面前にとつぜん携帯電話の画面を差し出したのです。そこには「あなたは北京にいくのですか?」という文字が。なるほど、これが翻訳機能だな。
「私はカンボジアのプノンペンに行きます」と丁寧に声に出すと、携帯の画面には確かに私の言ったとおりの日本語が表記されました。おそらくきちんと中国語に変換されたに違いありません。
ところが、彼のぶつぶつとしたどう聞いても不安・不満のトーンは収まらない。もしかして、カンボジアやプノンペンを知らないのかなぁ???まさかなぁ???
彼はさきほど羽田空港から当地北京に到着した中国国際航空、略してAir Chinaの飛行機の座席から私をそっと抱き上げ、機内専用車イスに移乗させ機外に運び出してくれ、さらには空港内移動用の車イスに渡しを乗り換えさせて、そして次なる目的地に向かって私と大きな機内持ち込みに持つを載せた車イスを押してくれているのでした。若くて大きな力持ち。
いやいや、私はてっきりAir Chinaの乗組員から、私の乗継便について彼が聞いているのだと思い込んでいたのです。でも、彼はこれから私をどこに運べばいいか当惑している。
すぐ目の前にある案内表示の中に「到达 Arrival」に並んで黄色い目立つ看板で「过境 Transfer」とあるのが目に留まります。ーートランスファー、トランスファーとそれを指さして叫んでみる。あるいはーートランジット、プリーズ。
けれどもお兄さんにはどうやら通じない。やがて彼は改めて携帯電話画面を私に見せる。「飛行カードを持っていますか?」 OK、OK、そうだよね、最初からそれを見せればよかったのです。
羽田空港でもらった北京からプノンペンへ飛ぶ便のボーディングパスを彼に渡します。
そのボーディングパスをしばらく眺めていた彼は、やがて勢いよく車イスを再スタートさせました。あいかわらずなにがぶつぶつと囁いているのですけれど、その囁きからは先ほどの不安・不満は消え去っているように私には感じられました。
他の乗客は通らない細い通路に入ったり、その先にあるエレベータを降りたりして、とにかく再度の荷物チェックも済ませて、押され押されてたどり着いた搭乗口には確かに「金边 Phnom Penh」の表示がありました。よかったー。彼もそう思ったはずです「Hěn hǎo(很好 / よかったー)」って。
そんなわけで、先日12月1日に私は東京からプノンペンに戻りました。Air China、値段は安くて(片道チケットが3万円⁉)、運べる荷物は他社の2倍(23キロをふたつ!)。私はプノンペンではどうしても見つからなかったベッドサイドで使う15キロ近くの重さのある手すりを運びたかったので、23キロをふたつ運べるというのは大助かり、というかそういうチケットを探してたどり着いたAir Chinaは運賃も安かったわけです。Air China、初めて乗る飛行機会社は車イス者としては対応がわからずちょっと不安だったりもしたのですけれど、特になんの問題もなし。トランジットでサポートしてくれたお兄さんも、真剣で優しい方でありました。よかったよかった。
董郁玉(とう・いくぎょく)さんのこと
さて、一方で、プノンペン入りした早々、以下のニュースがFacebookで届きました。
董郁玉(とう・いくぎょく)さんという中国のジャーナリストが、最近スパイ罪で7年の実刑判決を受けました。彼のスパイ容疑の主なものは、当時の日本大使館の大使であった垂秀夫氏を始めとする日本の外交官との交流だというのです。
董さんは2022年2月に北京で日本大使館員と会食した直後に逮捕されています。その際には董さんと共にこの日本大使館員も一時拘束して取り調べを受けていて、その後、日本政府は中国政府に対して厳重抗議したそうです。(日本関連スパイ罪で懲役7年 光明日報の論説部副主任・董郁玉氏の判決に日本政府は断固として抗議すべき(阿古智子) – エキスパート – Yahoo!ニュース)
つまりね、市民が他国の大使館職員と交流すると「スパイ」と疑われる、実際に有罪となり長期間拘留される、ということですよね。そして、今回は、日本の大使官職員(大使も含む)が中国国内でスパイ活動をしていたということになりますでしょう。
大使館員たるもの、中国に関して情報収集は、そりゃしますよ。大使館員でなくとも、小さな教育支援プロジェクトの一員である私でも、その任国について任国の人からさまざまに「情報収集」します。カンボジアならカンボジアの公務員に「あの件、その後どうなっているの?」なんてことを、それこそ会食しながら質問したりします。その会食は…確かに私のおごりだったりする。あちゃー、あれも「スパイ活動」? おごっちゃまずかったかなぁ。
裁判では金銭のやり取りへの言及はなかったそうです。以下、阿古智子さんが書かれた上記のニュースソースより。
「董郁玉氏のご家族によると、判決文は手渡されず、口頭で伝えられただけだったという。伝えられた内容によると、日本人外交官8名の名前があげられ(名前の一部だけを表示)、証拠として採用したのは、元日本大使の垂秀夫氏が董郁玉氏に贈呈した垂氏が撮影した富士山の写真や、垂氏が董郁玉夫妻を招待した夕食会のメニューだったという。情報提供などに関わる金銭の授受等については述べられなかったようだ。また、外務省や日本大使館をスパイ組織と認定しているという。」
大使本人が撮影した富士山の写真の贈呈!! それが報酬? 賄賂?
そりゃ、私たち市井の者にはわからない、いわゆる「インテリジェンス」の魑魅魍魎の世界ってのがあるのかもしれません。そして董さんは、そんな世界に巻き込まれてしまった。
量刑7年! 7年間、自由が奪われるのです。それはやっぱりダメだろうと思うのです。権力側がその権力を行使するには、やっぱりそれなりのルールなり、明確な理由なりがなければいけないはず。
そしてなによりも、この事件、董さんへの実刑判決をうけて、当の在中国日本大使館や日本政府はどんなリアクションをしたのでしょう?するのでしょう?
蟻ん子のような小さな一個人の自由云々よりも大事なのは国家の利益で、どんなリアクションを起こすにせよ、それはあくまで国家として不利益にならないことがもっとも大事なのかなぁ。
董さんは、以前米国のハーバード大学による世界のジャーナリスト対象の特別研究員制度(ニーマンフェローシップという制度)で同大学に招へいされた経験もあります。中国国内では、それを理由に董さんは米国のスパイだという陰口もあったりするらしい。
そして、今回の判決に対して米国政府はすぐに「不当な判決だ」という抗議を表明して、中国政府に対して董さんの無罪釈放を求めています。寡聞にして、日本政府の反応を私はまだ知りません。中国 スパイ罪で起訴 新聞の元幹部に懲役7年 米政府は非難 | NHK | 中国
日本国籍を持つ私が、たとえば中国に親しんでいて、そして外交官になって中国に赴任したとする。それまでの個人としての友人関係も少なからずある。けれども、この判決のように、下手に彼らに会えば、その友人たちが「スパイ」とされてしまう可能性がある。友人たちだって、それを怖がって私との接触は避けるだろう。
そりゃ、外交官になるという選択をしたということは、国家の外交戦略に巻き込まれることは最初からわかってのことでしょう。だから、個人としての交流関係は犠牲にしても仕方がないのか? 国家に準じなければいけないのか?
さらに聞きたいのは、中国の外交官はおしなべて「スパイ」なのか? 外交官自身にその認識はあるのか? (だって中国の裁判所が日本の外交官を「スパイ活動する人」と断定するということは、中国の外交官もつまりは…ってことになりませんか?)
私はね、国家を個人に背負わせるような状況って大っ嫌いです。
さらにね、表現や移動の自由を迫害されるのも、嫌いだ、というか恐怖だ。恐ろしい。
たとえば、このプノンペンの一室。私は一週間以上も外に出ないこともあったりします。けれども、それはあくまで私の勝手だ。けれども、「出てはいけない」となにか強者に強制されるとすれば…、それは恐怖です。息苦しさマックス! 苦しいことこの上なし。
アフリカの採集民を狭い檻の中に収監すると、それだけで死んでしまう、というような話を昔読んだことがありますけれど、わかるよ、死んじゃう気持ち。
董さんのご家族による声明文によれば、「月に一度彼を訪問する2人の弁護士によれば、董郁玉は毎日腕立て伏せ200回と脚上げ200回を継続的に行っており、高い精神力を維持しているようだ」とのことです。董さんと董さんのご家族がこの苦難を乗り越えていってくれることを切に祈ります。
董さんを支援するオンライン署名活動も実施されています。よろしければ、ぜひ署名をお願いします。
オンライン署名 · 董郁玉氏の実刑判決に対する日本からの緊急メッセージ – 日本 · Change.org
この署名に賛同を求める中で、友人の阿古智子さんは以下のように書きました。
「中国渡航のビザ免除の措置も再開し、日中関係をよくしようとしている時に水をかけるのか、と言われてしまいそうですが、これはこれ、それはそれです。日中関係を真に良くしたいのであれば、言論人がこのように弾圧されることはあってはならないし、外交や文化交流、学術研究を正常に行う環境を取り戻すべきです。」
そう、これはこれ、それはそれ! 阿古さんは、私とは比較にならない「中国愛」に満ちた方です。だからこそ、中国政府の弾圧を見過ごすことができない。そんじょそこらの中国ヘイトの言動をしている国粋言論人とはまったく違う。そして、彼女は、今や中国に入国できない。あまりに危険すぎる。会いたい友人に会えない。思い出あふれるあの地に行けない。その口惜しさは、いかほどか。
そして董さんと同じような境遇に遭っている言論人、弁護士、そんな人たちが中国にはたくさんいる。そのことを阿古さんは日々目の前の問題として対処している。
とにかく、平和や自由や、人権や……、21世紀も半ばになろうとしているこの人口80億を超える人間社会はどうなってしまっているのか。退化に向かってやしないだろうか?
中国だけじゃない。 パレスチナはどうよ? スーダンはどうよ? 米国はどうよ? ミャンマーはどうよ? 日本はどうよ? カンボジアはどうよ?
まったく、鬱だわ。溜息ばかりの年の瀬だわ。

















董さんは『日本大使館員と会食した』からスパイ活動だって訳分らん話。拝読して理解できないのは日本大使館員をスパイとして断定しておいて、その彼らに外交特権が与えられているのですか? 素人考えでは国外退去扱いになるのではないか? 二律背反を地で行くどうしようもない話にならない話ですね。学兄が嘆く通りあっちゃこっちゃ権力者のデタラメがまかり通る言葉が軽くなるどころか、言葉が意味を失う世界に机に肘をつき額にじっと手を当てる。何も出来ない無力感。
私は今日いわきたらちね放射能測定室へのカンパを用意して眠りにつくところでした。
そうだ、村山さんいろいろあったようですが、15㎏近い手すりも携えてプノンペンに戻られたのですね。さすが村山さん!! それはよかったですね。話の順序が逆になって失礼しました。
匿名様
読んでくださり、コメントも送ってくださり、どうもありがとうございます。
匿名様が感じた不思議感、董さんのご家族からも指摘されています。以下のページをぜひご覧ください。滑稽丸出し、まるでブラックユーモア満載の判決です。
https://www.change.org/p/%E8%91%A3%E9%83%81%E7%8E%89%E6%B0%8F%E3%81%AE%E5%AE%9F%E5%88%91%E5%88%A4%E6%B1%BA%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E7%B7%8A%E6%80%A5%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%82%B8/u/33093679?cs_tk=A_2fs8TkDx86MrozXWcAAXicyyvNyQEABF8BvDQzNzkzZjVjZmVkNDIwODI3MWM0NWRiZWEwZWFmOTZkZWQwYmVmYmUzNWQ2NmZiODg5M2UyNDNiYzk1OGI3ZDE%3D&utm_campaign=15d29b305cb14df59327766a529a28dd&utm_content=initial_v0_9_0&utm_medium=email&utm_source=petition_update&utm_term=cs