『香港 あなたはどこへ 向かうのか』阿古智子著 出版舎ジグ 2020
以前もFBでちらっとご紹介したことがある『香港 あなたはどこへ 向かうのか』。先日出版され、ぼくも購入して読みました。
著者の阿古智子さんとは、ぼくが30歳のころ、ケニアでの青年海外協力隊の活動から帰ってきて日本社会への復帰に失敗し、逃げ込んだ先の大学院で出会ったのでした。大学を出てから7年ほど経っていた私にとって、大学を出てそのまますぐに大学院に入ってきた阿古さんは、やっぱり若くてフレッシュだった。私たちは、国際開発という分野で、同じ指導教官だったことで身近な存在でした。けれど、中国の社会開発の現状を把握したいという明確なターゲットも持っていた阿古さんに対して、ナニを研究すればいいのかよくわからなかった私は、ゼミの相手としては物足りなかったはず。
当時、ぼくは社会復帰に失敗したダメージが大きく、自分のことで精一杯な精神状態でもありました。せっかくの大学院という機会。場所。もっとつっこんでガシガシやるべき学友とのつきあいも、腰がすわらないままの2年間だったように思え、反省すること仕切りです。
そんな日々、たまに顔を出した遅い時間、天井の灯り落ちた広い共同院生室で、座席に設えられた小さな読書灯を点けて、中国語の勉強をする阿古さんの姿をなんとなく覚えています。そして、20代後半を迎えた阿古さんは香港大学へ旅立っていき、30代半ばという時間に入っていったぼくは、なんとかODAの片隅で途上国支援の仕事を得て、私たちはしばらく連絡を取ることもないままでした。
おそらく、10年ぐらいがあっという間に経って。ぼくはフィリピン、そしてカンボジアでの仕事をしていたころ。阿古さんは大学の研究職を得ていました。なんで連絡を取るようになったのか。とにかく、ぼくたちは、元級友として、少なくともやりたいことを続けてきたというそれぞれの矜持を持って、改めて交友を取り始めたのでした。
香港、ホンコン、Hong Kong、いい響きだよねぇ。ぼくも大好きな街です。思い出も多い。あの雑多さ、ふところの深さ、わけのわからなさ、誰でもOKな感じ、海峡がある都市。
新しい空港になってからも何回も遊びに行っています。空港からバスで香港中心街に向かう道筋、ぼくは必ず右側窓よりにすわります。高速道路の海峡を渡る大きな橋から、右手に近づいてくる香港のビル街を眺めるのがとっても気持ちいい。
そんな香港が「危機(?)」にたっているという。阿古さんからの発信を刺激にして、ぼくもここ数年、香港の民主の動きにはどうしても注目していました。周庭(アグネスチョウ)さんhttps://dot.asahi.com/wa/2020081800055.html?page=1 の講演も聞いたことがある。二十歳過ぎで、ぼくの息子より少し年上だけの彼女が、全力を懸けて「闘っている」。あぁ、すごいことだなぁと思った。周庭さんのような若者は香港の、中国の、世界の、宝だなぁと思った。だから、絶対に彼女たちを追い込み過ぎてはいけない。窮鼠猫を噛むのネズミにしてはいけない、絶対に。
でも、そんなふうに思った2年ほど前と比較しても、香港への北京からの圧力はよりいっそう強いものになり、今や、周庭さんたちは自由に日本にも来られないし、書きたいこと思ったことを自由に発信することもできなくなっている。香港国家安全維持法が施行され、民主化活動の術を奪われた彼女は、『来年の今ごろ生きてるかな』と口にしたという。なんで、まっとうに自由を求めると、「来年の今ごろ生きているかな」というほど、怖い思いをすることになってしまうのだろう?それはやっぱりオカシイ。直感的に、オカシイ。
現代中国、特に農村での社会開発の研究を続けている阿古智子さんにとって、香港と北京との歴史や動向は、けして専門分野ではない。それでも、否応なくその波に飲み込まれていく阿古さん。そんな彼女が、これまで磨いてきた「ものを見る力」の全力を振り絞って書きつづった、魂の叫びが『香港 あなたはどこへ 向かうのか』というこの本には詰まっている。研究書とは全く違う、とてもパーソナルで、内省的で、きわめて熱い冷静さが保たれ、でも聞こえてくるのは、悲鳴だ。その悲鳴が、あなたにも届いて欲しい。知ってほしい。
阿古智子さん、素敵な友だちなんです。その彼女が叫んでいる。ぜひ、読んでください。


















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